たまの覚書

記憶を書きとめておくところ

ガラス戸の向こうに、包丁を持った人影がうろうろしている。
最期に見るのがその景色なのは嫌だったので、布団を頭からかぶっていた。包丁はどこに突き立つんだろう、どうせなら苦しまずに死ねるところがいい。

布団を撫でる手があった。
「あんたはこんなにいい子なのにね」
震えも涙も止まった。
今さらなにを。
心がすっと冷えていくのが分かった。刺すならこの手の主を先にしてくれないかな、そう思った。