たまの覚書

記憶を書きとめておくところ

あるある

わりと虐待サバイバーあるあるだと思う。
自分の子供が羨ましい。
私は陰険クソ野郎ではあるが、子供にそれを悟らせまいと努力ができる程度の常識人でもある。
子供には精一杯の愛情を注いでいる。
子供は、ママのとこに生まれてきて良かった!と感謝してくれる。
羨ましい。私も、自分の元家族にそう思いたかった。
生まれてきたことを呪われない家庭で育ちたかったと、そう思ってしまう。

加害者

きょうだいに身体的・精神的いじめ、母にネグレクト、近所で性的虐待と、それなりにひどい目にあってきたわけなのだが、私は自意識過剰マンなので、この考えが頭を離れない。

「私は被害者の皮をかぶった加害者だった」

 

確かに虐待は受けた。今も心の傷が残っていると断言できる。

しかし私の行いも大したものった。

愛情不足を盾に、母に何でも強要した。掃除、金の無心、弁当箱や体操着を洗いに出し忘れたくせに、なんでやってないんだと逆ギレしたり。

何でもお菓子を食べながら目も合わせず「やっといてよ」と言って、「私は家政婦じゃない」と何度も激怒された。その激怒も、そもそもそっちがほっとくんだから悪い、と責任転嫁してすねた。

本当に最悪の子供だった。

母に放置されることは、恰好の言い訳づくりだった。だって私はかわいそうな子供だから。本当にそれで、何でも許されると思っていたのだ。

 

そしてきょうだいには、見下した視線を常に送った。

大きくなって少し知恵がつくと、何か言われても「学校に行ってないような奴に言われたくない」「あんたそんなこと言える立場なの?」とマウントを取ってひたすら馬鹿にした。(それが「お前は人を人とも思ってない!」と幾度も包丁を持ち出されることにつながった)

私はお前らにいじめられた被害者だから、これは復讐だ。力で敵わない子供の精一杯の抵抗なのだ。

 

私は自分の行動をすべて正当化した。

 

私は被害者だったかも知れない。しかし、陰湿な加害者でもあった。

本当に、ろくな人間じゃない。

凍てついた凝視

っていうんだね、あの目のこと。

一定のいじめを受けると、全てがどうでもよくなって、なにもかもバカバカしくなって、自分の顔から表情が消えるのが分かった。

私があまりに冷めた目をしているので、「なんだその目は」「お前は人を人とも思ってない!死ね」と叫んで蹴られた。でも別にどうでも良かった。むしろ、私の視線だけでひるんでいる相手が滑稽で面白かった。

そんな名前がついてたのね。凍てついた凝視。かっこいいじゃん。

ベランダ

洗濯などでベランダに出ると、たいてい鍵をかけられて締め出された。

トイレや押し入れと違って気が楽だった。何しろ空間が開けている。最悪、ここから飛び降りれば解放される。たぶん人生からも解放されてしまうが。まあ、なんにしろ逃げ場があった。

締め出されるのはだいたい夜なので(昼だと私が怖がらないから面白くないらしい)、ぼんやりと夜景を眺めて過ごしていた。やけにすきまのあいた手すりの間から脚を投げ出し、家の前の道路を眺めるのも楽しかった。

家の前は飲食店が並び、駐車場もあるので、夜もほぼひっきりなしに人や車の往来があった。

目的の店が目の前にある彼らは、わざわざ上を見上げたりしない。私はちょっとえらい人か、かみさまになった気分で彼らを観察していた。その下品な会話、すぐ前でこどもが聞いてますよ!気付いてないんだろうな~ふふん。

 

そうやって一時間、二時間が過ぎると、「いつまでも何やってんだ!」と窓を蹴られる。ここからが面倒だ。「じゃあ鍵あけてよ」「お願いしますだろ」「おねがいします」「風呂は抜いたからお前入れないよ。早く開けてくださいって言わないのが悪い」

とにかく私に懇願させたいのだ。

私もコンクリートのベランダで眠るのは難しい。せめて平板な声で「はい、ごめんなさい。私が悪いです。あけて下さいお願いします」とお願いする。

中に入れてもらうと体を取り巻く空気がまったく違って、ああ、外は寒かったんだなあと実感する。さて、これから家族の布団敷きと食器洗いだ。

死にかけた

母が連れてきた人だった。真冬で、外には雪がつもっていた。

車に乗せてやるから遊びに行かないか?と言われ、二つ返事で乗り込んだ。雪の積もった夜はどこか明るく感じる。

車は見知らぬ方角へ走って、まったく人気のない倉庫街?にたどりついた。

なにが起こるんだろう、ちょっと怖い。私は車に乗ったことを後悔し始めていた。

誰の足跡もついていない、真っ白な敷地に車を乗り入れる。雪遊びでもしようと言うのだろうか?

しかし彼は、私のシートベルトを確認すると、にやっと笑った。

 

「行くぞおおおおおおおお!」

「ギャアアアアアアアアアアアア」

車は信じられない勢いで発車し、フェンスに向かって疾走。叫ぶ私をよそに、急ハンドルでドリフトし、敷地を駆け抜けた。タイヤが横滑りするのが分かる。

「危ない!危ない!あぶあぶ」

「俺はトラック運転手だ!」

理由になっていない。恐ろしい音を立てながら車は何度もドリフトし、私はシートや窓に押し付けられた。なんか煙みたいの見えるんですけど……。

雪の上を無残なタイヤ痕だらけにして、男は満足した。

「どうだ!面白い遊びだったろ!」と帰り道に言われた。刺激的ではあったが、もう二度とごめんだった。

今でも覚えているくらいには、強烈な遊びだった。